児童虐待への報道からみるマイノリティ差別

また児童虐待による痛ましい事件がおきた。
今回は、母子家庭の母親の交際相手の暴力団組員の男性が「3歳児にガンつけられた」といって殴り殺したケース。
(産経ニュース:http://www.sankei.com/affairs/news/160128/afr1601280008-n1.html)
同じく産経ニュースで「相次ぐ交際相手の虐待、防ぐ手立ては」という見出しの記事が躍っているし、テレビのトップニュースになる虐待事例も、実父でない男が加害者であるものが多い。
(産経ニュース:http://www.sankei.com/affairs/news/160127/afr1601270037-n3.html)

このケースは、確かに痛ましい。それに疑いの余地はない。
一当事者として、もっと虐待の認識が広まり、救済策が充実していってほしいと切に願っている。
一方で、私は「交際相手」による虐待事件ばかりを集中的に取り上げるマスコミ報道のしかたには、非常に違和感がある。

子供の虐待死の加害者は、実母が6割

統計を見ると、虐待の加害者は「実母」であることが圧倒的だからだ。
児童虐待に係る事件 検挙人員
子を殺して検挙されるに至ったような深刻なケースでも「実母」の割合は6割を超える。
もっとも、「交際相手」の女性宅で子と同居している男性というのは数が多くないから、こういった男達が虐待事件を起こす「確率」は一般家庭よりずっと高いのだと思う。
しかし一方で、数で考えれば実母が起こす虐待事件が圧倒的に多いのも事実。

つまり、現実には傍目には「ごくごく普通の」家庭にも、虐待は起こっているのだ。

にも関わらず、マスコミが大々的に取り上げるのは交際相手が起こす事件で「実は実母の虐待も多いんですよ」などと触れられることはまずない。

恐ろしい虐待は「自分とは関係ないどこか」で起こるもの

マスコミは、何も「嘘」はついていない。
「母の交際相手」が虐待するケースがあるのは嘘ではない。ただ、それを取り上げて「事実」を報道しているだけだ。
実母による虐待死は「同情の余地がある」とマスコミが考えるケースが多いのかもしれないし、ニュース性のある派手な暴力が起こりやすいのかもしれない。
それでも、6割を超える実母による虐待事例の報道はあまりせずに交際相手が起こす事件だけを集中的に取り上げることは、情報操作以外の何物でもない。

「ニュースをざっとチェックする」程度の、虐待に特段深い関心は持たない多数派の大人達には、あたかも「交際相手の男」が虐待の主役のようなイメージがスリ込まれていく。
虐待は「シングルマザーがだらしなく男を連れ込んだ結果、子供が犠牲になる」というストーリーの中で起こる特殊なことという意識が、スリ込まれていく。

私は記事を選択する現場のやり取りを見たわけではないので断定はできないのだが、マスコミ関係者を含む社会が、こういうストーリーを望んでいるのではないかと思えてならない。
恐ろしい出来事は、自分とは無縁のところで起きている。そういうストーリーで落ち着きたいと、望んでいるのではないかと。

つまり、世の中には恐ろしい事件があるけれど、シングルマザーなどといった「だらしない」過去を持った女が「だらしなく」男を連れ込むからこうなるのであって、夫婦で実子を育てている家庭には虐待なんてそうそう起こることじゃない。
そして多数派はそのストーリーに安心し、思考を停止することができる。

このストーリーが成立すれば「多数派」である子持ちの既婚女性達は、「他人事」として「どこか自分と関係無いところで起こった悲劇」に、一瞬、眉をひそめていればいいことになる。
自分の家にも一歩間違えば虐待が起こりうるかもなんて考えなくていい。、
自分も我が子に手を挙げている・挙げそうになるが、それが虐待かもしれないと悩まなくていい。
夫や友人からも「あなたの家は大丈夫なの」という疑いの眼差しを、向けられずに済む。

マイノリティに不都合を押し付ける社会

同じようなことは、犯罪者が精神障碍者、外国人、そして未成年であった場合にも起こっている。
外国人の犯罪に限って言えば、犯罪目的で入国する人達がいるので統計上はどうなっているかは分からないものの、そういう例外を除けばこれらの属性を持った人間が犯罪を犯しやすいというデータを、私は見たことがない。少年犯罪に至っては戦後、減少の一途をたどっているのに、たまに犯罪が起こると「魔の14歳」などと呼ばれ、ことさらに少年が「凶悪化」しているかのように騒がれる。マスコミはそれを知っていてこれらの属性を調べ上げ「なお、○○容疑者は精神科通院歴があり・・・」等々付け加え、「嘘じゃないです」と開き直る。

性犯罪の加害者がアニメやエロ系のゲームの愛好家であった時も、そう。
世の中にAVを見たことがない男性は、聞いたことがない。
妄想上のセックスが性犯罪に結びつくのであればAVだって「危険因子」のはずなのに、というか客観的に見れば生身の人間を使って残酷な性暴力を描写することも多いAVの方がよほど「危険」なのに(最後には犯された女性が喜ぶ、といった現実にはあり得ない展開も多いと聞く。こんなおぞましいことはない。)、なぜか女の子が二次元キャラであるときのみ、大々的にその旨が報道される。

怖い犯罪は起こったけれど、精神科なんかに通っていない私は大丈夫。
日本人である私は大丈夫。
「普通の日本人」として「普通の日本人」に混ざって生活している限り、大丈夫。

そして社会にとって不都合なことは暗にマイノリティのせいにされ、結果マイノリティがの差別が助長される。

良識ある社会人であれ

マスコミは是非こういう偏向報道は避けてもらいたいものだが、マスコミはそもそも偏向報道で世論を誘導することを決してやめないだろう。それ自体がマスコミの権力の源泉だからだ。
幸い、今はネットがあり、各種統計にもすぐにアクセスできる。
読む側は、ニュースを鵜呑みにするのではなく、理性を知恵で、ニュースの裏側にある事実を見極める必要がある。

蛇足ながらもう少し付け加えると、虐待は痛ましい事件だが、今始まったことではない。
マスコミがこういった「痛ましいけれど日常的に起こっている事件」を思い出したかのように大々的に取り上げる時、あるいは、著名な芸能人などのスキャンダルなどを「そこまで?」と思うほど執拗に取り上げる時には、大体、多くの国民にとってあまり都合のよくない法案の審議が佳境を迎えたりしている。
嫌な世界だ。

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