少子化問題~少子化は女性のワガママのせいなのか~

(2015年10月12日修正)

産めよ増やせよじゃあるまいし。

菅義偉官房長官は29日、フジテレビの情報番組で、歌手で俳優の福山雅治さんと俳優の吹石一恵さんの結婚について「この結婚を機に、ママさんたちが一緒に子供を産みたいとか、そういう形で国家に貢献してくれたらいいなと思っています。たくさん産んで下さい」と発言した

(朝日新聞デジタル 2015年9月29日 http://www.asahi.com/articles/ASH9Y621MH9YUTFK00R.html)

菅官房長官に限らず、少子化がらみで政治家の女性への失言が止まりません。
大抵が「産まない女性への攻撃・蔑視」で、世間一般的にも「ワガママで、子供のために自分の時間やお金を使いたくない女性が増えた」といったトーンで語られがちです。

本当にそうなのでしょうか?
子供は男女がそろわないと生まれません。男性は何をしているのでしょうか?

少子化は、どの先進国にもみられる傾向です。

私は、先進国の中でも日本における少子化がここまで急速に進んでいるのは、若年層の経済基盤が弱くなっているからであると考えます。

言いっ放しではナンですので、データを使って読み解いていきましょう。

結婚しなくなったのか、結婚しても産まなくなったのか

まずは少子化の要因を分析します。

ニュースでは少子化は「統計特殊出生率」つまり女性一人当たりが産む子供の数で語られます。
これは簡潔で良い指標はありますが、原因を読み解くにはもっと細かい検討が必要です。

生まれてくる子供の数は、概ね以下の二つの要素で表すことが出来ます。
(未婚の母もいますので、あくまで「概ね」です)

子供の数 = 既婚世帯の数 × 既婚世帯当たり子供の数

つまり「少子化の原因は、結婚しなくなったことか、結婚しても産まなくなったことか」ということですね。
このうち「既婚世帯当たりの子供の数(合計結婚出生率[脚注])」は、戦後から高度成長期にかけてガクッと低下した後は、概ね2.2前後で変化がありません。・・・最新のデータを見ると2前後に低下してちょっと嫌な感じはするらしいのですが、それは今後の動向を見てからの話ということで、ここでは「変化なし」としておきましょう。

birth-rate

(出典:第 14 回出生動向基本調査 結婚と出産に関する全国調査 夫婦調査の結果概要http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000001thzi-att/2r9852000001ti0z.pdf)

というわけで、少子化の進行の要因は、主に既婚世帯の数の減少と考えられそうです。
既婚世帯の数もまた、以下のように分解出来ます。

既婚世帯の数 = 人口 × 既婚率

既婚率で測ろうとすると、離婚したり何度も結婚したりと人生イロイロ過ぎるのでシンプルに生涯未婚率で傾向を見てみましょう。
生涯未婚率、ぐいっと上がっていますね。

生涯未婚率の推移のグラフ

(出典:内閣府 男女共同参画白書 平成25年版第一部男女共同参画社会の形成の状況 http://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/h25/zentai/html/zuhyo/zuhyo01-00-20.html

婚活に女性ばかりが殺到するカラクリ

「婚活市場には女性ばかりが溢れている」
「女が肉食化し、男が草食化している」
さらには
「女性が高望みになったから結婚出来なくなった」
等々と言われますが・・・あれ、なんで「男性が結婚したがらなくなったから女性が結婚・出産できなくなった」とはあまり騒がれないのでしょうね。この「出産と育児は女のもの」として丸投げする風潮も少子化に一役も二役も買っている気がしますが、ここでは脇においておきましょう。

私は、婚活の現状はごく一部のキャリア女性を除いては「元々給与水準が低く、雇用も安定しておらず、夫の扶養無しで生きていくことが困難な」立場にある女性が「結婚で生活保障を求めて数少ない「高所得・安定職」男性に殺到する一方で
一人でカツカツの生活をしている男性は、妻子を養う余力がないために、或いはそう女性からみなされて選ばれないために、「結婚」から身を引いている。結果、男女の数にアンバランスが生じている、という構図で考えるのが自然と考えます。

頑張ってデータを見ていきましょう。

雇用形態別の婚姻・交際状況のグラフmarried-unmarried

女性は雇用の正規・非正規がさほど結婚や交際に影響していません。
一方で、非正規雇用男性の既婚率は正規雇用男性の1/4に過ぎません。彼女がいる男性は約半分、交際経験がない男性は倍以上!!
年収との関係でも、高収入男性の方が既婚率が高い傾向がくっきりと表れています。

ちなみに、1000万を越えた男性の既婚率は低いのですが、この所得階層は既婚率に限らず、イレギュラーな数値を示しやすいようです。白書内では「自立しているので結婚に向かいにくい」と分析されていましたが、1000万「以上」というカテゴリーには5000万とか一億とか稼いでいる人も含まれるわけで、そういう一般的なサラリーマンとは仕事も価値観も違う人達が混ざっているためかもしれません。

男女別・年齢階級別非正規雇用の割合の推移

(内閣府 男女共同参画白書平成26年版 男女別・年齢階級別非正規雇用の割合の推移http://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/h26/zentai/html/zuhyo/zuhyo01-02-06.html

 

以下のグラフを見てください。世間的には「女性の社会進出のせいで非婚化・少子化が進んだ」などとも言われていますが、データを見ると「進出している」というほど稼いでいる女性は少ないことが分かります。
女性は年収が200万円台の人が殆どです。手取り換算するとボーナス込みで月13~20万程度(参照:デジットさんの手取り計算 )。正社員で月の手取りが20万なら贅沢せず、大きな病気等のトラブルもなければ暮らしていけますが、13万だと都市部では自活が厳しい。女性の約半数は派遣社員やアルバイトで途切れなく次の仕事が見つかるとは限らぬ立場ですので、とても一人で生きていくことはできません

自然、「そろそろ結婚して落ち着きたい」には「経済的に安定したい」も含まれる。
ここで、結婚後も子供を産まずに共働きをするのであれば、二人とも年収200万でも世帯年収は400万。双方非正規でもリスクヘッジが出来る分安定するのでワルクナイ生活が出来そうですが、今は少子化の議論ですので、子供を産みたいと思った場合を考えます。

「派遣には育休が無いし乳幼児を抱えていては仕事も見つからないから、子供産んだらしばらくは専業主婦。小学校か中学校に上がったら働くとしても、パートしかないよね。なら、相手の男性の年収は500万円代位は要るかなあ。まだ20代で今後昇給が見込める人なら300万円台でもなんとかなるかな。もちろん正社員じゃないと不安だよね」と考えたとします。

20代~30代前半の男性の賃金は半数以上が300万円未満です。非正規雇用も15%程度います。

子供を産んだ上で「普通」に生活するための経済的条件を掲げた場合、現代日本では「高望み」となってしまうのです。

女性の賃金階級、年齢階級別同道者数割合(40代)男性の賃金階級、年齢階級別同道者数割合

(厚生労働省平成19年賃金賃金構造基本統計調査 http://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/chingin/kouzou/z07/kekka1-6.html#top)

男性の賃金階級、年齢階級別同道者数割合(40代)
ちなみにこちらは40代男性の賃金分布です。20代女性と40代男性の結婚が増えたと言われるのも、今ほど非正規化が進展しておらず、比較的安定した経済力が見込めるから、ではないでしょうか。

子供は労働力から「ぜいたく品」になった

・・・なんていうと、「子供を物扱いするなんて!」とお叱りを受けそうですが。

「子は宝」「どんな命も素晴らしい」といった精神論はひとまず脇に置いて、経済的側面での子供の位置づけの変化を考察してみましょう。

一般に子どもは家事・子守・家業の手伝いを担う労働力で後継者候補で、将来同居して家業を継ぎ墓を継ぎ、生活も経済面も面倒をみてくれるはずの「生活の安全弁」。教育も庶民の子は基本、家事家業を手伝わせるだけで足りました。つまり子を産む事は「経済的に有利」でした。
昔の母親が今の母親より愛情深かったから多産だったわけではありません。
家業の能力以上に子供が産まれた場合は、養子に出す、奉公に出す、身売り、もっと直接的な方法での「口減らし」も行われていたわけです。

今は子供が生まれれば妻の多くが辞職・失職する(=世帯収入源)。
子供のうちは働かせてはならない一方で、教育も与えなければならない(=支出増)。
AIU保険会社の調べでは子供ひとりを産んで大学卒業まで育てるには、全て公立校で済ませられたケースでも3000万円かかると試算しています。
それだけの支出をしても、成人すれば子は雇用され、就職や結婚を機に世帯を分けて出ていくため、老後の面倒は安泰とはいえません。
昔は大黒柱だった男性が倒れても他の家族が後を継げば家業が成り立ちましたが、サラリーマンの場合は雇用されているのは当人一人で、その人が倒れれば収入が途絶えてしまうのも違う点でしょう。

ここで一家の大黒柱がかつてのように終身雇用の年功序列であればまだ、収入は安定しますし丁度子の教育費がかさむ時期には豊富な収入に恵まれるという形で機能しますが、現在のように若者の雇用の不安定化・低所得化が進んでいる場合、延々給与水準は上がらないのみならず、一番教育費のかさむ中高年に失職するリスクが高い。
男性側が「妻子までは背負い込めない」と考えて結婚に二の足を踏んだたとしても、女性が「これでは怖くて結婚出来ない」と考えたとしても、それは「我儘」というより「合理的判断」という方が適切でしょう。

少子化対策はもはや手遅れじゃないかな

さてさて。

では、これから女性が悔い改めるか、時の政府が適切な支援策を打ち出せば少子化は止まって皆ハッピー、となるのでしょうか?

今後、この少子化傾向が止まり得るのかを考えるとき、「出産適齢期」女性の数が重要となります。
(かつて某大臣は、多分官僚なりからこんな感じの分析を見せられて、安易に女性を「子供を産む機械」呼ばわりしたのでしょう。不快な表現でしたが、調査研究の際にこのように物事を「要素」に分け、問題を切り分けて考えること自体はごくごくありふれた手法です。)

人口ピラミッドのグラフ

(総務省統計局日本の統計2015人口ピラミッドhttp://www.stat.go.jp/data/nenkan/02.htm)

・・・っていうか、もう40年も前からこんなすごい勢いで子供が減り始めていたのに、今更少子化が取り上げられるの、おかしくない?って感じですよね。

本気で少子化を考えるなら、この人口の多い団塊ジュニア世代が最後の望みだったはずです。その団塊ジュニア世代が40代に入り、これから出産適齢期女性は減る一方です。今後、20代30代は凄い勢いで減少していきます。多少既婚率や出生率が上がったところで「や、もう手遅れっしょ!」感満載です。

数字で言うなら、団塊ジュニア世代(1971~1974年生まれ)の女性の数は、97.8万人/年です。
団塊世代が今の合計特殊出生率と同じ、概ね1.3人の子供を産んだとしましょう。
団塊ジュニア世代の10歳下の世代は72.8万人/年ですので、団塊ジュニア世代と同じ数の子を産むためには「1.3*97.8/72.8=1.74人」
今30代に入ったこの世代が、今すぐ慌てて安倍政権が掲げる出生率目標の「1.8」を達成しても、団塊ジュニア世代と同じ数の子しか生まれない。

実際には首相が何か言っただけでは出生率は上がりません。今から物凄く急いで少子化対策をしても、法制度、続いて社会制度を整えて・・・とやっているうちに5年10年はすぐに過ぎていきます。
仮に5年後の2020年に子供を育てやすい環境が整ったとしましょう。
その頃30歳前後になっている年代の女性は60万人/年ですから、団塊ジュニア世代と同じ数の子を産むだけでも既婚未婚合わせた平均で、2人の子を産んで、やっと団塊ジュニア世代とトントンになります。

普通に考えれば、少子化の勢いが多少弱まるとしても、少子化自体は止まりません。

それでも政治家が、今気づいたかのように産め産め騒ぐのは、少子化対策の失敗、年金の制度設計の失敗を「黙って子供産みまくればいいのに、ワガママ言って産まない女のせい」にしたいという必死のアピールとしか思えません。

少子化の流れが止まらない以上、少子化を前提とした政策を考えるべき局面に、既に入っているはずなのですが、それもまた後手に回るのでしょうか?

少子化対策に必要なこと

このように社会そのものが変わっているので、少子化を食い止めるためには社会を整備するしかありません。
上述したように経済基盤がシッカリした男性は今も昔も世帯を持ち、世帯あたり2.2人前後の子供を産み続けています
現に「子供の6人に1人が貧困」と言われる時代、女性に罪悪感を植え付けて無理矢理子供を産ませたところで子供の、ひいては日本全体の貧困率が上がるだけです。

  • 男女ともに、安定して働ける、または失職しても生活が破綻しない制度作り
  • 結婚出産しても女性が辞職せずに済むための制度作り(3歳までは母が傍にいるべきかは、「選択可能な状況」を作った上ですべき議論です)
  •  子供を養育しきれなかった場合のセーフティネット(金銭的援助、子育てサポート、養子制度や社会的擁護の充実)

また、なんら「資源」のない日本では社会の豊かさを保つためには

  • 公教育の質の向上、教育の無償化(教材費等を含む)
  • 奨学金制度の拡充(今主流の、返済義務のある「教育ローン」と呼ぶべきものではなく、給付型のもの)

などで次世代が親の経済状況に関わらず、十分な教育を受けられる社会にすることも必須と考えられます。

前述のとおり、少子化対策はもう手遅れの段階に入っており、これから対策を打って少子化の速度が若干緩かどうかという話に過ぎません。子供はもう増えませんので、労働力をどう確保するのかを、移民も真剣に議論しなければなりません。
その前に、これだけ若者の雇用が不安定化している日本社会で若者が増えたとして、その若者たちにきちんとした雇用がありうるのかも議論すべきでしょう。ただ若者が増えても、雇用が無ければ失業者という社会の負担が増えるだけです。

治家は呑気に産め産め騒ぐだけではなく、以下のような制度作りをこそ進めなければならないのです。
何の対策も打たずに産め産め騒ぐだけなら政治家は必要ない。政治家は、絆の美しさを説く前に、 女性を責める前に、無為無策の自分を恥じねばならないのです。

=====
[脚注1]
合計結婚出生率:観察対象となる年次における夫婦の子どもの生み方を表す指標で、有配偶女性の結婚持続期間別出生率を合計することによって得られる。その値は一夫婦がその全出生過程を通して当該の結婚持続期間別出生率に従って子どもを生んだ場合に実現される完結出生児数を示す。ただし、夫婦の子どもの生み方(ペース)が複数年次にわたって変化しているときには、ある年次の結婚持続期間別出生率は実際の出生過程と大きく異なることがあるので、本指標の値の解釈には注意を要する。

(第14回出生動向基本調査結婚と出産に関する全国調査夫婦調査の結果概要国立社会保障・人口問題研究所http://www.ipss.go.jp/ps-doukou/j/doukou14/yougo.html)
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少子化問題~少子化は女性のワガママのせいなのか~」への3件のフィードバック

  1. ピンバック: 少子化考:多様化を受け入れない社会 | うつリンク

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    色々データを並べて理屈をつけてますが、全体的な論調として男性に責任押し付けてません?
    そんなアホなことを言ってる限り絶対に解決しませんよ(少子化が進んだのは誰が悪いというものでもない)。

    元々哺乳類は一夫多妻が当たり前です。ほとんどのオスは競争に破れ、生涯交尾をすること無く死んでいきます。
    自由恋愛が普通になっているのに、一夫一婦制にした時点で子供が減るのは当たり前なのです。

    それよりも一夫多妻制や婚外子を容認する社会作りがとても大切だと思っています。これだと経済力のある男性は子供を10人くらい作ってくれる可能性があるので、少子化問題は解決に向かうと思います。
    元々哺乳類のメスは強いオス一匹を求めていますので、自由恋愛にすると一夫一婦制ではバランスが悪いのです。税制面で優遇するのは無理でも、法律で婚姻制度をもっと柔軟にすれば簡単に解決できると思います。

    何度も言いますが、人間も哺乳類に属する動物です。
    その本能に逆らわない制度を作ることが大切だと思います。

    1. うつリンク管理人 投稿作成者

      コメントありがとうございます。
      誤解があるようですが、私は女性のせいではないと書いていますが、男性のせいだとも書いていません。

      まず、子供が労働力ではなくなった先進国では少子化は必然である。
      次に、日本で特に少子化が進んでしまっているのは、バブル崩壊以降に中高年の雇用や年金を守って
      若年層の雇用を崩壊させるに任せてしまったせいだというのが私の意見です。

      「男が家族を養うべし」という価値観をお持ちの方は「男がだらしなくなったせい」などと男性のせいにしてしまいがちなのですが

      そもそもは、女性が、自分と子供、さらには夫を養ってもいいわけです。
      平安の昔のように、母方の祖父母が養っていた時期もありました。
      核家族で男が大黒柱、という高度経済成長期の家族形態でハッピーに暮らせる人はそれもいいですが、違う形態をとってもいい。

      結婚制度が社会に合わなくなっている・・・という点では同意です。
      私は一夫一婦制や一夫多妻に限定するのではなくて、子供ありきで子供を養うコアとなる一人、二人または数人の大人を家族とみなす社会になればいいと思っています。

      今は少子化大変!と騒ぐ割には
      「夫がいて妻がいて、夫は正社員。妻の年齢は20代後半から30代前半。子供は一男一女」
      みたいな変な理想像があって、それから外れると眉をひそめられることが多い。

      シングルマザーでもいい。
      LGBTのカップルでもいい。
      十代の妊娠も多いですから、10代の夫婦とその親、または未婚の母とその父母でもいい。
      姉妹でもいい。
      親友でもいい。
      全員が納得しているなら一夫多妻でも多夫一妻でもいい。

      別に男女の性愛がベースになくても「私達はこの単位で経済活動を行っていきます」と誓約した人達が、家族として正式な保護者を名乗れて各種制度も利用できるようになれば、今よりは産みたいと思う人達が増えると思いますし、それでも増えない分については、もう時代の流れなのだと思います。

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